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愛無き行為

もうXX歳だよ。そろそろ人生投げようよ。

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ほふるちゃんとパパ 最終話

 ここはほふるちゃんの通う幼稚園。
 今日はついにほふるちゃんが幼稚園を卒園する日です。

「園長、準備が整いました」
 ラフレシア組の保母さんが、園長室で椅子に座っている園長に設営が完了したことを報告しています。
 園長は扉に背を向けていたので、椅子をくるりと回転させラフレシア組の保母さんに向き直りました。
 この幼稚園には地球の次元の歪みがあると言われ、それが丁度この園長の座っている椅子の部分であり、園長が座っていると首と胴体が繋がっていないように見えます。
 このことが明るみに出ては園児たちの成長に暗い影を落としかねないので、園長室の扉を開く為には、網膜と指紋のチェック、三日に一度パスワードが変更される電子ロックを解除しなくてはなりません。
「そうですか。では参りましょう」
 園長は返事をすると立ち上がりました。そして、ぐにょ、と身体が有り得ない形に変形したかと思うと、椅子の前にあった机をすり抜けて、ラフレシア組みの保母さんの隣に既に並んでいました。これも次元の歪みが成せる業だということで保母さん達は納得しているようです。

 卒園式の設営によって、幼稚園内は暗い闇に閉ざされていました。
 窓には黒い昔のゴミ袋が貼り付けられ、その上からカーテンが幾重にも張り巡らされ、一筋の光の進入すら許されていません。
 園児たちは明らかに異質なこの場の恐怖にひたすら耐えつつ卒園式の開始を待っていました。
 その後ろでやはり怪訝そうな顔つきの父兄の皆さんが、園児たちと同じように卒園式を待っています。
 そんな中、デンドロビウム組の保母さんがマイクを使って話し始めました。
「お集まりの皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより卒園式を始めたいと思います」
 その声を聞いて、園児や父兄の皆さんが私語を慎み、開園に備えました。
「予めお願い申し上げていた通り、携帯は必ず電源を落として下さいますようお願い申し上げます。些細な電波によって園長に不調をきたす恐れがあります。また、くしゃみは結構ですが、欠伸はお控えください。僅かな酸素の減少によって園長が呼吸困難に陥る危険性があります」
 デンドロビウム組の保母さんは続いて諸注意を述べ、デンドロビウム組の園児たちが座っている側へ移動しました。
「園長は何か、特殊な実験生命体か何かか」
「加藤君……お願いだから園長にはちょっかいを出さないでね。ほんの一時間くらいの辛抱よ」
 デンドロビウム組の問題児である加藤君に釘を刺す保母さん。というよりもそれは哀願に近い物でした。
「それでは園長の登場です」
 ラフレシア組の保母さんが、教室の扉を開けました。
 ベイダー卿のテーマソングと共に園長がゆっくりとその姿を現します。
 真っ黒なシーツのようなものを頭からすっぽりかぶり、目にあたる部分だけくり貫いて視界を確保しているようです。
 ぺたり。ぺた。ぺたり。ぺた。
 明らかに裸足の足音を響かせて、のそのそと壇上に上っていきます。
 この時点で園児たち数人がぐずり始めました。
 園長が右手をあげると、音楽がフェードアウトしていきます。
 そして、マイクに顔を近づけると、園長は第一声を発しました。
「アイム、ユア、園長」
 がたん、と加藤君が立ち上がりました。
「どうしたの加藤君。座ってなきゃダメじゃない」
 デンドロビウム組の保母さんが急に立ち上がった加藤君の下へ駆けつけます。
「いや……先行して救急を呼んでおこうと思ってな」
「大丈夫よ。園長は何時もこんな感じなの。安心して座っていてね?」
「何時もこんな感じの園長の下で働いていて何も疑問に思わないのか……。まぁ最後だからな、黙っておこう」
 加藤君は仕方なく座りなおしました。
 その後も園長のスピーチが続きます。
「……というわけで、園児たちの真摯で真剣で真面目な態度が」
 がたん、と加藤君が無言で立ち上がりました。
「どうしたの加藤君。座ってなきゃダメじゃない」
 デンドロビウム組の保母さんが急に立ち上がった加藤君の下へ駆けつけます。
「いや……真摯も真剣も真面目も似たような意味だから三回も繰り返さんで良し」
「分かったわ。園長には後で国語辞典を渡しておくから今は座っておいてね?」
「まあ……最後だしな」
 加藤君は仕方なく座りなおしました。
 と、その時です。
 電流子音に乗って流行の楽曲が流れました。
 そうです、携帯電話の電源を切っていなかった人が居たのです。
「なんということを!早く電源を切ってください!」
 ラフレシア組の保母さんが叫びました。
「あ、す、すみません」
「いいから早く!」
 しかし時は既に遅かったらしく、壇上では園長が小刻みに震え、頭を両手で押さえていました。そして次の瞬間、人間にあるまじき身体能力でその場から数メートルほど跳躍し、手足を使って四足歩行を始めると、恐るべき速さで父兄の皆さんの方に向かって突進し始めました。
「逃げてください!園長に直接触れられてはいけません!酸が……!」
 言い掛けてラフレシア組の保母さんは口を噤みました。
「今絶対、酸って言ったぞ」
 加藤君が聞き逃さず突っ込もうとします。
「コンディションレッド!園内の人間は三番通路から地下シェルターへ非難してください!」
 一瞬にして卒園式が阿鼻叫喚の地獄絵に変わっていきました。
 園児たちは競うように泣き叫び、父兄はパニックに陥っています。
 そして携帯の電源を切り忘れていた父兄が、園長によって被っているシーツの中に引き擦り込まれ、
「うわぁ、何だこれは……!ぎゃあああ!!」
 叫び声がしたかと思うと、シーツの中からゲル状の液まみれになって放り出されました。
「離れてください!その液に触れると、酸が……!」
 デンドロビウム組の保母さんが、放り出された父兄を助けようと近づいた他の父兄に注意しつつ、窓に向かって走っていきました。
「窓を開けてください!園長のシーツを何とか引き剥がして、直射日光を当てさえすれば……!」
「だから、いったいどんな生き物の下で働いていたんだ」
 なぜか落ち着いている加藤君がぼやきました。
「きてはぁっ!」
 園長が奇声を発するとブリッジの体勢を作り、弱点であるらしい日光を教室内に取り入れようとするデンドロビウム組の保母さんに向かって突進していきました。
「しまった!」
 保母さんは足をつかまれ、そのまま転倒してしまいます。
「う……」
 視線の先には窓があと数メートルというところに迫っていますが、園長に足をつかまれ動くことが出来ません。
 と、目前のカーテンの端に隠れているほふるちゃんが保母さんの目に映りました。
「ほふるちゃん!そのカーテンを開けて……窓に貼り付けてあるゴミ袋を破って!」
 保母さんが必死に声を上げます。
 ほふるちゃんは目前の状況に恐慌して、身体を動かすことが出来ません。しかしそれも園児では仕方のないことかもしれません。保母さんは諦めると目をつぶって覚悟を決めました。
「ふーばー!」
 園長がよく分からない叫び声を再び叫びます。保母さんが背後から圧し掛かっている園長を見やると、ほふるちゃんのパパが園長のシーツを引き剥がしていました。
「清彦さん……」
「どうでもいいからさっさと窓を開けろガキが」
「は、はい」
 パパに言われると、ほふるちゃんは従順な犬のようにさっさとカーテンを開け、窓の黒いビニール製ゴミ袋を外しました。
 きゃあー!と金切り声を上げると園長は白い煙を濛々と上げ、やがて熱した鉄板に水を掛けた時のような蒸発していく音をを立てると、やがて消えてなくなりました。
「いや……だから本格的にこれは何なんだ」
 加藤君はしかめっ面をして元は園長と呼ばれていた物を見下ろしながら言いましたが、特に誰も気に留めませんでした。
「終わったな、これで」
 ほふるちゃんのパパがしみじみと言います。
「ええ……でも、この幼稚園にまた、第二、第三の園長が現れるかもしれない」
 デンドロビウム組の保母さんが遠い目をして後に続けます。
「いや、幼稚園なんだから園長は現れて当然だと思うが」
 加藤君は取り合えず国語辞典を園長の亡骸の傍に置いておきました。
「明日からまた一緒に暮らさないか」
「清彦さん……本当に?……嬉しいです」
「ほふるにも言わなきゃいけないな。……おい、ほふる」
 剥ぎ取ったビニール袋を握り締めたまま放心状態のほふるちゃんに、パパが声を掛けます。
「ほふる、実は、お前は俺の子供じゃないんだ」
「え」
 トンカツにはソースを掛けるのが当たり前、というような軽さでパパが言います。
「この保母さんの子なんだ」
「え……え?」
「そうなの、ごめんねほふるちゃん。いえ、ほふる。そして貴女は正確には私の子でもないの」
 刺身には醤油を掛けるのが当たり前、というような軽さで保母さんが言います。
「え……えっと……何を言ってるの、パパ?先生?」
「正確には私の連れ子なの。で、死んだ前の旦那の連れ子だったの。分かる?」
「分かり……ません」
「じゃあ分かりやすく言おうか、ほふる。俺と、この保母さんは夫婦仲なんだけど、お前は血縁上何の繋がりも無いんだ」
 ほふるちゃんは無言で固まりました。やはり理解は出来ませんでしたが、物凄い疎外感があることだけは事実です。
「何しょげた顔してるんだ。家族じゃないか、ほふる」
 パパが笑顔でほふるちゃんの頭をはたきました。
「そうよ、これから仲良く暮らしていきましょうね、ほふる」
 保母さん、つまりママが笑顔でほふるちゃんの頬をはたきました。
 そこでようやくほふるちゃんは無言のまま涙を一筋流しました。涙を。一筋。流したのです。
「それでは、これにて卒園式は大団円のまま終業とさせていただきます。今日起こった事はトラウマの一つにでもして将来の自分に役立ててください」
 ラフレシア組の保母さんが締めの言葉を述べ、卒園式は終了しました。
 因みに携帯を鳴らした父兄さんは意識不明の重態で病院に搬送されたようです。
 そして。
 次の入園式にも、やはり園長は現れました。この卒園式と変わらぬ姿のまま。
 しかしそれは、別の話。

 さあ!
 ほふるちゃんの真の家庭内阻害は始まったばかりです!
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  1. 2005/10/25(火) 10:43:40|
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ほふるちゃんとパパ 第九話

 ここはほふるちゃんの通う幼稚園。
 今日は園児達の授業参観日です。
 ほふるちゃんの所属するデンドロビウム組には、既に大勢の父兄の方々が集まっています。

「はい、みんなー。今日はお忙しい中みんなのお父さんやお母さんが、みんなが日ごろ幼稚園でどんな風に過ごしているのか見に来てくれましたよー」
 デンドロビウム組の保母さんが園児たちに笑顔で話しかけます。
「では今日は、みんなのお父さんやお母さん似顔絵を描きましょうねー」
 保母さんがそう言いながら画用紙を配り始めました。
 と、その時です。
 がしゃーん、と荒々しくデンドロビウム組の扉が開かれました。
 そして扉の奥からずかずかと、白いスーツに坊主頭、顔のあちこちに生々しい傷跡をこしらえた二十代後半くらいの男が酷い猫背で教室内に入ってきます。
 今までの温和な雰囲気が一瞬にして爆裂四散したのが手に取るように分かります。
「あ……あの、すいません、どちら様でしょうか……?」
 保母さんがおずおずと口を開きます。
 男はあー、と低くうなるように喉を震わせると、眉根を寄せて保母さんに言います。
「おう、今日は授業参観やなかとかい!やけん、わざわざ来てやったっちゃろうもん!」(今日は授業参観ではないのですか。だから{私は}やってきました)
「ええと……確かに今日は授業参観日ですけれど……どの子のお父様で?」
「おいは子供はおらんばってん、畜屋さんの娘さんのほふるさんば見てきてほしかけんて、代理できたった」(私に子供はいませんが、畜屋さんの娘さんであるほふるさんを見てきて欲しいということで、代理で参りました)
「そ、そうなんですか。では、どうぞ後ろの方へお願いします」
「あー……椅子もなかとか、おい!客に立っとけってや!?」
 男は猫背をさらに低くして、自然と俯き加減になっていた保母さんの顔を下から覗き込み、凄みました。
「すいません、ではこちらのパイプ椅子を使ってください」
 保母さんが教室の隅に置いてあったパイプ椅子を差し出します。男はそれを受け取り教室の後ろの真ん中に陣取りました。
 保母さんは何とか当初の笑顔を取り戻すと、再び授業を進行させようとします。
「ええと……じゃあみんな画用紙は取ったかな?それじゃあ、お絵かきを始めましょうねー」
 普段は教室いっぱいにこだまする園児たちの声が、風に揺られる蝋燭のような弱々しさで少しだけ聞こえました。
「それでは父兄の方、どうぞご自由にお子様を見てあげてください」
 そう言われて父兄の皆さんはまばらに、そして男を避けるように動き始めました。男は椅子に座ったまま動くそぶりを見せません。
「みゆきちゃんのお母さん。絵がとっても上手なんですよ」
「ひでお君は外で遊ぶ事の方が得意みたいですね。この間のかけっこ大会でも一等賞でした」
「たかし君は色んな物を使っておもちゃを作るのが得意なんですよ」
「まみちゃんはおままごとでお母さん役が得意で……」
 保母さんが父兄の皆さんに色々と幼稚園での子供のことを話していきます。そうしているうちに、園児も父兄も男の事を徐々に忘れていってしまいました。
「ほふるちゃん、赤のクレヨンかしてー」
 たけし君がほふるちゃんに声をかけます。
「えー、このクレヨン買って貰ったばっかりで、赤はまだ使ってないからダメー」
「いいじゃん、貸してよー」
 そう言ってほふるちゃんの赤いクレヨンを取るたけし君。
「あ、ダメだったらー」
 ほふるちゃんが取り返そうと、たけし君が手に取った赤いクレヨンをひっぱると、ぽきっとクレヨンは折れてしまいました。
 暫くの沈黙の後、
「うわぁん、たけし君がー」
 ほふるちゃんは泣き出してしまいました。
 あらあら、と保母さんがほふるちゃんの元に近寄ろうとしたその時です。
 男が立ち上がると、今まで座っていたパイプ椅子を蹴り上げました。
「わぁーが、なんばしよっとかコラ!」(貴方は何をしているのですか)
 男はたけし君の元へ来ると頭を鷲掴みにして睨み付けました。たけし君はあまりに突然の展開に気が動転して泣くことも声を上げることもせず、凝縮した瞳孔で男の顔を見つめ、口を魚のようにぱくぱく動かしていました。
「やめてくださいっ」
 たけし君のお母さんが息子を男の手から開放し、抱きしめました。ここで初めてたけし君が泣き始めます。
「こんガキ、今ほふるさんのモンに手ば付けようとしたろうが!クレヨンの折れてしもとろうが!」(この子供は先ほどほふるさんの物に手を付けようとしたではありませんか。クレヨンが折れてしまっています)
「弁償しますから、許してください!この子に触らないでっ!」
「こいは畜屋さんのわざわざ娘さんの為に買ってやったもんなんや!弁償したちゅうて済みゃあせんとぞ!」(これは畜屋さんがわざわざ娘さんの為に買ってあげた物なのです。弁償したからといって解決はしません)
「待ってください、子供がしたことですから……!」
「して良か事と悪か事ば教えるとか我がの仕事やろうが!我ががちゃんと教育しとらんとやろうが!」(やってよい事と悪いことを教えるのが貴方の仕事ではないですか。貴方がきちんと教育をしていないのではないですか)
「あ、あの、村上さん、大丈夫だよ、くっつければ使えるから……。たけし君を許してあげて」
 ほふるちゃんが村上さんというらしい男の袖を引っ張って言います。
「……ほふるさんがそげん言わすとやったら、よかです、分かりました」(ほふるさんがそうおっしゃるのなら結構です。分かりました)
 村上さんはあっさり納得すると、再び教室の後ろの方へ移動して、蹴り飛ばしたパイプ椅子を起こすと、そこに座り直しました。後に残ったのはおびえて抱き合う、たけし君とたけし君のお母さんだけでした。

「ええと……それじゃあみんなが描いた絵を見ていきましょうか」
 授業時間も終わりに近付いたので、保母さんが一旦回収した園児たちの絵をみんなの前で紹介していきました。
「さとし君はお父さん、お母さんと一緒の絵ですねー。次はほふるちゃんの絵ですね。これは……」
 ほふるちゃんの絵はパパと思しき人物の足にバーコード頭の男が縋り付いている絵でした。力の限りシュールな場面が、園児らしい頭足人の絵と相乗効果でひたすら不気味に仕上がっています。
「これは……どういう場面なの?ほふるちゃん」
「最近、パパがお仕事に行くまえに、知らないおじさんが泣きながらそうしてるんだよ、せんせー」
 無邪気に返答するほふるちゃん。
「ああ……岩崎の事ですか。あいやもうこらっさんじょん、安心してくださいほふるさん。今ごろエチゼンクラゲと一緒に海ば漂っとりますけん」(ああ、岩崎さんの事ですか。あれはもういらっしゃらないので、安心してくださいほふるさん。今ごろエチゼンクラゲと一緒に海を漂っていますので)
 村上さんがくっく、と含み笑いを浮かべながら呟きました。
 今度から畜屋さんの娘さんとは関わらないように子供に言い聞かせないと、といった雰囲気が教室全体を支配しているのは明白です。
「あのー……それでは今日はこれで授業参観を終了させていただくことに……」
 保母さんがとにかくこの場を解散させようと一生懸命振舞い、何とか事態は穏便に収束していきました。

「パパー、これ見てー」
 ほふるちゃんは早速おうちに帰ると今日描いた絵をパパに見せることにしました。
「おや、これは画用紙だね、ほふる。これがどうかしたのかい?」
 パパは人差し指と中指で汚物を摘むようにしてほふるちゃんの絵を眺めます。
「ええと、今日の授業参観でパパの絵を描いたんだよ!」
「ああ村上に行かせた奴か……。それで何十分もかけて画用紙の上にクレヨンを擦り付けたんだね。いやー微笑ましいよ。行かなくてよかったと痛感するなあ」
「先生も褒めてくれたんだよ、上手に描けてるって」
 ほふるちゃんはパパにも褒めてもらおうと必死に言葉を続けます。パパはそんなほふるちゃんを優しく見下ろすと、何時も通りのさわやかな口調で娘に言葉を返すのです。
「パパは顔から腕が生えている人間の絵を上手だなんて嘘偽りを口にするような保母さんのいるところにほふるの教育を任せたくないなー、はっはっは……」
「パパ……ほふる、頑張って描いたの……お部屋に飾ってね?」
「折角こんな丈夫な厚紙なんだから折りたたんで灰皿にさせて貰うよ、ほふる。パパはその方が実用的でありがたいから。ああ、でも紙だから灰皿にすると燃えて火事になるかもしれないなあ。では火事になる前に予めゴミ箱の中に入れておけば焼却炉で燃やされるから問題ないな。良かったなあ、ほふる。家が火事にならなくて」
 すらすらと素早く口を動かしながら、パパはほふるちゃんの絵を何度か折りたたむと手早くゴミ箱の中に投下しました。
「うわぁーん、パパー!」
 パパの事を思って描いた絵が捨てられたのを見て、ほふるちゃんはついに泣き出してしまいました。
「おいおい、ほふる。家が火事にならなくって良かっただろう?それともお前は明日から野宿でもしたかったのか?……これで良かっただろうって訊いてるだろう、ガキが」
「うっ……うう……はい、火事にならなくて良かったです……」
 ほふるちゃんは今日もパパのあまりにもあんまりな愛情に枕を濡らして眠るのでした。

 さあ!
 ほふるちゃんとパパの愛情あふれる生活は始まったばかりです!
  1. 2005/10/22(土) 05:44:04|
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ほふるちゃんとパパ 第八話

 ここはほふるちゃんの通う幼稚園。
 ほふるちゃんはデンドロビウム組に所属していますが、今回の舞台はラフレシア組です。

 ラフレシア組の男子園児二人がなにやら言い争いをしています。
「返せよひろし、それボクが取ったボールだぞ!」
「けんじはどうせボール遊びはヘタクソなんだからいいだろ!貸せよ!」
 幼稚園児らしく無茶な理由で、けんじ君が持っていたボールを略奪しようとするひろし君。
 もちろんそんな横暴に納得行く訳が無く、ひろし君はけんじ君が奪ったボールを取り返そうとします。
「うるせーなー、ボールなんてまだ遊具室の中にあるだろ!別なの使えよ」
 ひろし君が中庭に設置された遊具室を指差します。
「ちゃんと空気が入ってるのは、もうそれしかないの知ってるだろ!」
 言い返すと、けんじ君は跳ねながらひろし君が持っているボールに手を伸ばします。けんじ君よりもひろし君の方が身長が高く、掲げるようにしてボールを持っているので、けんじ君はなかなかボールを取り戻すことが出来ません。
「しつこいぞ!」
 ひろし君が煩わしさのあまりけんじ君を突き飛ばしました。
 丁度ジャンプしていた時に押されたため、けんじ君はバランスが取れず、派手に転んでしまいました。
「うわぁーん、せんせー!」
 けんじ君は泣きながら先生の下に駆け寄りました。
「おや、どうしたんです、けんじ君。泣いて許されるのは学歴詐称した政治家と、詩を盗作したアイドル歌手ぐらいのものですよ?」
 ラフレシア組の保母さんが笑顔で声を掛けます。けんじ君は泣いているので後半のよくわからない例えは無視することにしました。
「ひろし君は……うっく、ボクの……ボールがぁ」
「あらあらけんじ君。日本人の癖に日本語も喋れないんですか?文法崩壊してますよ」
 口ではまともに取り合っていませんが、ゆっくりとけんじ君の頭を撫でるラフレシア組の保母さん。
「ひろしくーん。ちょっと来てくれるー?」
 とりあえずけんじ君の言葉の中に出てきたひろし君を、当事者の一人と見なして呼びつけます。
 ひろし君は仲間内数人でボールを使って遊んでいましたが、保母さんに呼ばれると、言われた通り彼女の元へやってきました。
「けんじ君が泣いてるんだけど、何かあったの?」
「別に……けんじが悪いんだよ」
「あら、けんじ君?ひろし君はけんじ君が悪いって言ってるけれど……そうなの?」
「違うよぉ、ひろし君がボクのボールを取ったんです」
「けんじ君はこう言ってるけど、そうなの?ひろし君」
「だって……けんじがボール貸してくれなかったのがいけないんだ」
 多少の非は感じているのか、ひろし君は少し語調を弱めて言いました。
「そうなのー。ひろし君がボールを貸してって言ったのに、けんじ君が貸さなかったの?」
「違うよ!ひろし君はボクから無理やりボールを取って、ボクを押したんです!」
「けんじが素直にボールをよこさないからだろ!」
 保母さんはニ、三度頷くと、
「いけませんねぇ、思わず軟弱物のけんじ君が泣いて世の中自分の思い通りに回そうとしているのかと誤解しかけましたけれど」
 ここで一呼吸おいて、
「どうも悪いのはひろし君の方みたいですねー」
 ひろし君へ目を側めました。
 視線がぶつかって、ひろし君は小さくうめいて後ずさりしました。
「まったくひろし君の口の上手さには先生参ってしまいます」
 言いながら、額に手を当てて参ってしまうっぽいポーズをしてみせる保母さん。
「だ……だって……!あのボールはボクたちが何時も使ってるボールで……!」
「園内の遊具は全て園のものですよ。あのボールにひろし君の名前が書いてあるとでも言うんですか?」
「でも……!」
「私は今、書いてあるというんですか、と訊いたんですが?それに対して『でも』と?日本人の癖に日本語も喋れないんですか?文法がおかしいですよ」
「か、書いてないですけど……!」
「まったく言い訳がお上手ですねー、いったいどこでそんなに言い訳ばかり練習しているんですか?私はそんな事教えた覚えはありませんけど?親が教えているんですか?将来政治家にでもなりたいんですか?それとも弁護士ですか?いいですねー、言い訳が得意だと。有利な仕事がいっぱいですね?」
 保母さんが幼稚園児のキャパシティを超える速度と単語で次々まくし立てます。容量を超えた幼稚園児が出来ることなんて一つです。
「うっ……ううー」
 ひろし君は何も言い返せずに、というか何から言い返していいか分からずに、ぽろぽろと泣き出してしまいました。
「あらあら、今度は私を悪役にするつもりですか?私がひろし君を虐めているように見せる為に態々泣いて回りにアピールまでして。泣いて見せれば自分が弱者であるように見えますものね?いやだわ、ひろし君の頭の良さに先生驚きを隠せないわ。高校辺りに進級したらどうかしら。こんなに賢い子なんですものね?」
 ひろし君は心を滅多打ちにされてトマトの様に真っ赤になりながら泣き始めました。当初被害者であったけんじ君は凄く気まずそうな顔をして困惑しています。
 保母さんはその様を満足そうに見届けた後、けんじ君に向き直りました。
「良かったわねぇ、けんじ君。さあひろし君を指差しなさい。貴方の無罪と正義が証明されたのよ。ああ、でも手は出したらダメよ?世の中殴るよりも相手を痛めつける方法があるんだから。もしかしたらひろし君はこの事がトラウマになって、大人になっても反論されるのが怖くて自分の意見が言えない根暗なダメ人間になるかも知れないわね?……いい?人を傷つけるときは決して癒えない場所に致命的な傷跡を残すのよ」
「は、はい」
 けんじ君は恐れから、口に出来たのは辛うじて肯定の言葉のみでした。
 保母さんはその返事に満足してか、ひたすら泣きじゃくるひろし君は歯牙にもかけず、そのままさっさと教室へ戻っていきました。

 さあ!
 楽しい園児達の生活は始まったばかりです!
  1. 2005/10/19(水) 15:37:32|
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ほふるちゃんとパパ 第七話

 ほふるちゃんとパパは夜の商店街に繰り出していました。
 それだけ書くと、まるでパパがほふるちゃんの成長によからぬ影響を与えようとしているように聞こえかねませんが、今日は商店街で夏祭りがあるのでパパが特別に夜のお出かけを許可してくれたのです。
 久しぶりに優しいパパの行動に、ほふるちゃんの機嫌も上場です。
「パパー、わたあめ買ってー」
 さっそく幼稚園児らしく、親に無駄な出費をさせようとしてきます。
 パパは久しぶりに見る娘の笑顔に、和やかな微笑を浮かべました。
「よーし、どの包みのやつがいいんだい、ほふる」
「えーとね!真ん中の右側の奴がいいー」
「そうか、これかな?」
「うん、それ!」
「そうか、じゃあ買ってやろうお前の今月のお小遣いから。すいませんこれください」
 そういいながらパパはわたあめの代金三百円を支払い、ほふるちゃんにそれを手渡しました。
「わーい、パパありがえ?」
 ほふるちゃんはパパの一部早口で聞き取れなかった部分を聞き返そうとしましたが、パパは特に娘が疑問に思って聞き返すようなことは何も言っていないという風に言葉を続けました。
「次は何が欲しいんだい、ほふる。何でも買ってあげるよお前の来月のお小遣いで」
 今度ははっきりと聞こえたので、ほふるちゃんは暫く憮然とした表情を浮かべましたが、折角のお祭りなので深い事は考えずにおきました。
「えっとねー、次は……」
 と、言いかけたところでほふるちゃんは身体をぶるっと震わせました。
「パパぁ、その前にトイレしてくる!」
 ほふるちゃんが近くに見えたコンビニへトイレを使わせてもらおうと駆け出します。
 しかしその小さな肩をパパががっしりと掴みました。
「待ちなさいほふる。トイレしてくるとはどういう事だい?」
「え……その、おっしこ……」
「そんな言葉を口にしろなんて言ってないんだろう、ほふる」
 パパは肩を掴んでいるのと逆の手の人差し指をほふるちゃんの口に突っ込み、皆まで言わせません。
「トイレをするなんて、お前はトイレを産卵でもするつもりだったのか!正気になりなさい!」
 激昂しながらパパはほふるちゃんの肩を激しく揺さぶりました。どう見ても正気じゃないのはパパの方です。
「あああ」
 明らかに園児が御することの出来ない力で、ほふるちゃんはがくがくと振り回されます。口から意にしてない言葉が漏れます。無論何か喋ろうにもパパの人差し指が突っ込まれているので、まともな事は口にしようが無いですが。
「うあああん」
 パパに引き止められた為にほふるちゃんは我慢できずに、おしっこを漏らしてしまいました。
「こらこらほふる。新しくおろした浴衣が台無しじゃないか。尿意を催したときはちゃんと花摘みに行くとか、最低でもお手洗いに行くとか明確な意思を示さないと駄目だぞ」
 諭しながら、パパはほふるちゃんから両手を放しました。
「うぅ……ぐしょぐしょで気持ち悪い」
「仕方ないなほふる……今日はもう帰るか。お前が赤ん坊みたいに漏らした所為で」
 言いながらパパは祭り会場から踵を返し、さっさと歩き出しました。後ろから遅れないように、とぼとぼとほふるちゃんも付いていきます。
「いつまでも泣いてるんじゃない、ほふる。ほら、わたあめ。お前の今月のお小遣いで買ったんだから食べなさい」
「はい……」
 ほふるちゃんがわたあめを袋から取り出そうとした瞬間、パパが取っ手の割り箸を引っこ抜きました。
「そういえば昔、わたあめを舐めていた幼児が転んで、割り箸が小脳に突き刺さったという事例がある。お前はそそっかしいから袋の中に顔面を突っ込んで舐めなさい」
 パパが子を思う親切な心を込めてそう言います。
「は……い……」
 ほふるちゃんは言われた通り袋の中に顔を入れて少しずつ舐めました。
 そのまま数歩進むと、足に何か突っ掛かってほふるちゃんは倒れこみました。
「ほら、危なかったなぁほふる。パパが割り箸を抜いていなかったら死んでいたかもしれないぞ。パパにありがとうは?」
 パパが倒れたほふるちゃんに手を伸ばします。何かがぶつかってずれたらしい靴を足のつま先で直しながら。
 ほふるちゃんはそのまま音も無く泣き始めました。

 さあ!
 ほふるちゃんとパパの愛情あふれる生活は始まったばかりです!
  1. 2005/07/28(木) 22:02:09|
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ほふるちゃんとパパ 第六話

 ここはほふるちゃんの通う幼稚園です。
 相変わらずほふるちゃんのパパは迎えにくるのが遅く、ほふるちゃんは一人で待ちぼうけを食らっていました。
「パパ遅いねー?」
 腕時計で時間を確認して、保母さんはぽつりと呟きました。
「うん……でも慣れてるよ。それに」
 ほふるちゃんは保母さんを見上げ、
「待ってる間は先生を独り占めできるから寂しくないよ」
 にっこりと微笑みました。
 保母さんは微笑を浮かべてほふるちゃんの身体を抱きました。身体に回された保母さんの手を、ほふるちゃんはぎゅっと握り締めます。
 と、外から微かに車の音が聞こえてきます。
「あ、パパの車の音だ!」
 ぱっと顔を輝かせて外に駆け出すほふるちゃん。
「走ると危ないわよ。道路に飛び出しちゃ駄目だからね」
 保母さんはほふるちゃんの後を追いかけて園の外へと出ました。
 その刹那、どごっという鈍い音がして、赤いオープンカーがほふるちゃんの身体をゴムマリのように空に跳ね飛ばしました。
 オープンカーはスピードを緩めることなく直進し、ほふるちゃんは上手く助手席に落下したようでした。
「なっ」
 あまりにも唐突な事態に保母さんが言葉を失っていると、スラックスのポケットに入れていた携帯が震えました。
『時間が無いのでこれで失礼』
 携帯にはほふるちゃんのパパからメールが入っていました。
 保母さんはまだ腕に残るほふるちゃんの温度の残滓を抱きしめて、保母さんは膝をついて泣き崩れました。

 さあ!
 ほふるちゃんとパパの愛情あふれる生活は始まったばかりです!
  1. 2005/06/05(日) 00:22:33|
  2. ほふるちゃんとパパ|
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ドントーイ

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